「Agile PBL祭り」というイベントに参加してきました。なかなかエモーショナルなイベントだったので、主催者の皆さまへのお礼も兼ねてレポートしたいと思います。
(イベントのアルバムから、SATE SATE様より)
Agile PBL 祭りとは
イベントのホームページから引用すると、Agile PBL 祭りは
昨今、大学におけるPBL(Project Based Learning)型教育でのアジャイル開発の実践事例が増えてきました。
各大学のこれまでの成果とその高い教育効果を紹介し、学生社会人を問わずプロジェクト実践者の相互学習と交流を目的としたイベントを開催します。
というイベントです。
主催の筑波大学の渡辺先生やAttractorの永瀬さんの記事に理念なども含めてイベントへの思いが熱く書かれているので、詳細はそちらに譲ります。
参加した理由
僕は筑波大学の主専攻実験としてenPiTというものを履修していました。この実習は文部科学省の事業の一環で、「課題解決型学習(PBL)等の実践的な教育を推進し広く全国に普及させることを目的としてい」るものです。enPiTでは、実際に自分たちで課題を見つけ、それを解決するプロダクトを作っていきます。作っていく過程にアジャイルとスクラムを導入し、プロダクトがより課題にマッチした解決法となりチームがより効率的に動けるようにするにはどうすれば良いのかを学習していきます。
僕が所属していた実験チーム「シスコーン」は読みたい論文をサクサク探すことができる「CatchApp」というプロダクトを作りました。
チームとプロダクトは嬉しいことに身に余る高評価をいただき、今回のイベントにはチームとしてイベントに招待されていました。
ところで、当初Agile PBL祭りが開催された2月20日と21日はAndroidの日本最大カンファレンス「DroidKaigi」に参加する予定でした。見たいセッションもたくさんあり楽しみだったのですが、こちらは新型コロナの流行を受けて中止に。
来年もAgile PBL祭りを開催していただけるなら日程をズラして欲しい(傲慢)
何をやったか
お気持ちは後ほど書くので、まずはやったことを淡々と書きます。
イベントのメインは各大学から集まったPBLの実践者によるセッションと、成果プロダクトのデモ展示です。参加登録のためのconnpassにもそんなことが書いてあります。
セッションでは成果プロダクトそのものの説明だけではなく、そのプロダクトを作る中で何を考えたか、チーム開発の効率を上げるために何をしたかも発表しました。
僕が所属する筑波大学からは3チームの参加でしたが、南は沖縄の琉球大学、北は北海道のはこだて未来大学と、全国の大学からの参加がありました。
チーム名 | 大学名 |
---|---|
使ってもらって学ぶフィールド指向システムデザイン | 公立はこだて未来大学 |
シスコーン | 筑波大学 |
旬のどんぐり | 筑波大学 |
スクラムで研究プロジェクト | 筑波大学 |
イマギレ7 | 東京工芸大学 |
じぃ | 広島大学 |
momi | 広島大学 |
kit~と | 九州工業大学 |
WeBSTORY | 琉球大学 |
vip | 琉球大学 |
PiPi | 琉球大学 |
セッションとセッションの間には一時間程度プロダクトのデモのためのフリータイムが設けられています。他のチームのプロダクトをフラフラと見て回ったり自分のチームのプロダクトの説明をしたり、プロダクトとは関係なく先生や社会人の方と雑談をしたりしました。
昼食後には特別セッションとして、会場を提供していただいたDMM.comさんからDMMでのアジャイルの取り組みについてのプレゼンと、スクラムコーチきょんさんからのスペシャルセッションがありました。
イベント終了後には急遽後夜祭が開催され、「参加者のカオスをそのまま居酒屋にブチ込んだらこうなる」としか言えないような飲み会となりました。
参加してみて
Agile PBL 祭りの参加者は僕のような学生だけではなく、大学の教員やアジャイルコーチなどを仕事とする社会人、アジャイルを導入している企業に勤めている方など様々です。学会や技術単位のイベント、就活イベントなどと違い、参加している人のバックグラウンドが多様だったのは今回参加してみて楽しかったところです。
僕たちのプロダクト「CatchApp」はプロダクトそのものだけではなく過程も身に余る評価をいただき、参加者のいろいろな方から感想や意見をもらうことができました。
学生や大学教員からは「ぜひ使いたい」「学生に紹介してみたい」という声が多く聞かれてとても嬉しかったです。一方大学とは直接関係の無い社会人からは「今後このプロダクトはどうするつもりなのか」という大変現実的な質問もいただき、僕たちのチームとしても今一度考えさせられました。一旦区切りを迎えたプロダクトを今後どうコントロールしていくかという部分でも、教育者・学生・エンジニア・マネージャーなど、いろいろな方のそれぞれの立場から数多くの意見を聞くことができ、大変に有意義でした。
印象的だったのは、毎日アジャイルを実践している社会人たちはもちろんのこと、学生が全員とても熱意を持ってアジャイル・スクラムについて考えていることでした。イベント終了後には飲み会があり、僕も参加してヘラヘラと話をしていたのですが、はこだて未来大学の学生さんから「スクラムってスクラムガイドに従っていればスクラムだと思う?」といきなり質問されてびっくりしました。彼はなかなかに苦労したスクラムマスターだったとのことですが、飲み会の場においても同期の学生とガッツリそういった話ができるのは新鮮でした。
このイベントは参加者のネットワーキングも主な開催目的として設定されていました。スクラム・アジャイルやPBLといった分野からは離れますが、ネットワーキングの面からも個人的には成果がありました。
僕はバイトの関係もあり小学生へのプログラミング教育に興味があります。そこで、参加者の中で実際に小学校でプログラミングを教えたことがある方(株式会社オープンストリームの宮田さん)にお声掛けしたところ、色々と興味深い話を聞かせてくれました。小学生にプログラミングを教える際にはモブプログラミングを用いるのが良いのではないかという話で、大変参考になりました。
(イベントのアルバムから、SATE SATE様より)
コンピュータ関連のイベントではしばしばあることですが、水面下でのTwitterハッシュタグ実況も活発で、これも楽しさの一面でした。例えばDMMさんによるランチセッションの最中、
1週間のスクラムが水曜スタートなのって何か意味があるのかな
— Suda Mikihiro (@suda_sudame) February 21, 2020
自分のチーム開発でなんちゃってスクラムやったときは月曜スタートにしていたけど#agilepbl
とツイートしたところ、即レス2人、あとから1人と、3人の方からそれぞれ答えをいただくことができました。どの方もこのイベントが無ければ一生関わらなかったかもしれない方々で、イベントに参加した意義があったなと感じました。
今後について
予想以上に楽しかったAgile PBL祭りですが、PBL教育の先行きはそれほど明るいものではありません。PBL教育の主軸である文科省プロジェクト「enPiT」は、どうやら来年で予算が終了するようです。筑波大からは何も公式情報が出ていないので詳しくは書きませんが、主専攻実験としての現enPiTも今後形が変わっていくとの噂も耳にします。
僕個人としては、ぜひともPBL型の教育は継続されて欲しいと思っています。
現代の社会は従来と異なり、大学を出て大企業に就職すれば安泰という話は通用しづらくなってきていると思います。それと並行して、モノを世に送り出すハードルはかつてなく低くなり、アイデアと技術さえあれば(企業の大小や個人と集団に関わらず)誰もが同じようにプロダクトを評価されるようになってきていると実感しています。
そんな社会の中では、今までの大学における学習のように自分の個としての力を伸ばす学習だけではなく、プロジェクトに基づいて社会に働きかける力を養う学習も極めて重要な学習要素なのではないでしょうか。こういった学習は企業に入ってからするものだという向きもあるようですが、僕としては、社会の様々な面倒ごとから切り離された状態で理想的なプロジェクト運営を学ぶというのは大学にしかできないことだと思っています。
そういった考えから、僕はenPiTは非常に良い実習だったと思っています。大学と企業が非常に良いバランスで関わりあい、現状での最適解に近い学習ができたのではないかと感じています。全員にこのタイプの実習が楽しめるということは無いとは思いますが、PBLだからこそ楽しめるという学生も多いはずです。今後このタイプの実習の規模が縮小するようなことがあれば少なからず残念だと思ってしまいます。
今後に向けて何ら具体的な案を出せず大変歯がゆい気持ちですが、何とかこのタイプの教育が継続されることを、強く願います。
最後に
末筆になりましたが、今回イベントを主催していただいた川口先生、國田先生、永瀬さん、渡辺先生、こういった場を設けていただいてありがとうございました。
僕個人は来年度はメンターとしてenPiTに関わっていくつもりです。来年度もAgile PBL祭りが開催され、また別の視点からイベントを眺められることを心より期待しております。
最後の最後に
enPiTについてのポエムも書こうと思って書き始めたのですが、ダラダラと長くなりそうだったので別の投稿に分けます。多分今年度中くらいには「enPiTを受講して」みたいなタイトルの記事が上がるはず⋯⋯。たぶん。