2022年春の現実逃避旅行 三日目

秋学期の授業をこなし、3月頭締め切りの論文をどうにか提出し、卒業後の進路選択も大詰めという、なかなかにストレスフルな日々から現実逃避すべく、一人で関西方面大回りを演じている。せっかくなので旅行記を書いてみる。

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博多 → 小倉

三日目は8時前にホテルを出発。本来乗らなければいけない列車の数本前の列車に乗車する。前日の逆ルート、鹿児島本線の快速を使って小倉へ向かう。

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博多駅:相変わらずかわいい車両

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817系車内:JR東日本や東海では絶対見ないオシャデザイン

そのまま下関に向かっても良かったが、前日に下関では既に下車して時間を使っていたので、この日は小倉で小休止することとする。小倉駅の改札を出て初めて知ったが、小倉にはモノレールが走っている。駅の建物に突っ込むようにしてレールが整備されており、なかなか見応えがある構造である。小倉城を目指して歩き始めたものの、地図を見ると歩いて戻ってくるにはやや時間が足りないようなので断念。朝食としてパン屋でマヨコーンパンとメロンパンを購入。コーヒーも買おうと思ったが店員が慌ただしそうだったので遠慮する。

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小倉駅北九州モノレールが構内をブチ抜いている

小倉 → 小串

前日同様415系関門海峡を通過する。前日ですら感じなかった海峡通過の感動をさらに感じなくなった。小倉で時間調整をした影響で下関では乗り継ぎ待ちも無くスムーズに乗り換え。

下関からは山陰本線をひたすら東へ上っていく。山陰本線は初めて乗るのでとても楽しみである。車両はキハ40系。僕が暮らした三島・浜松・つくばはいずれも電車の地域だったので、気動車は物珍しい。渋いオレンジ色が良い雰囲気である。周りの乗客には地元客に加えて僕のような旅行客のような人もチラホラ見られる。山陰本線は景色も良いので鉄道ファンでなくても楽しめるのかもしれない。

山陰本線はのダイヤは良く分からない駅で乗り継がなければいけない構成になっている。僕が乗った列車も例外ではなく、小串駅という何も無い駅で乗り継ぐ必要がある。

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小串駅:美しい!

小串

事前にGoogleマップで調べて駅周辺は何もなさそうだと思っていたが、到着してみたら何とビックリ、何もなかった。まぁ住宅街の中の鉄道駅なんてそんなものである。

だがしかし、小串駅も捨てたものではない。最悪の場合は駅のホームでぼんやり座って待つしか無いな、などと思いながら散策に出たところ、ものの1分で最高の海岸にたどり着いてしまった。日本海らしからぬ穏やかな波、透き通った海水、良い雰囲気に湾状になった地形、ザ・日本海なゴツゴツした岩の海岸、青空、気温、どれを取っても最高である。階段が整備されており水辺まで近寄ることもできる。一時間強の待ち時間、この階段に座って本を読んでいたが、この旅行屈指の気持ち良い時間だった。これのためにわざわざ小串に来るかと問われれば残念ながら答えはNOだが、旅の間の1時間をこの景色を眺めて過ごせることは非常に幸福なことである。ローカル線の残念ダイヤも捨てたものではない。

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小串:ド綺麗

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小串:読書中の視界

小串 → 長門

小串から長門はまたキハ40に乗ってドコドコと進んでいく。この区間山陰本線は海沿いを走っており、景色が尋常で無く良い。どの程度景色が良いかと言うと、隣のボックスシートストロングゼロを飲んでいる知らないオッサンに何か情緒的な味わい深さを感じてしまうほどには景色が良い。途中の駅から制服姿の女子高生が乗ってきてぼんやり景色を眺めていた。気動車・良い景色・アンニュイな女子高生という三点セットはこのまま写真に撮ってTwitterに上げたら2万RTくらい付くのではないかと思えるほど絵になる。が、ボサボサ髪黒縁メガネクソデカリュック全身ユニクロ人間の僕がニマニマしながら女子高生の写真を撮ったりしたら旅行どころか人生が終わってしまう。僕が一眼レフが似合うクールなお姉さんに生まれていたら写真を撮れたかもしれない。来世に期待である。

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小串→長門:延々と最高な景色が続く

長門

小串に引き続き、長門でも乗り継ぎで1時間以上待つ必要がある。ちょうどお昼時なので、街をぶらついてお昼ごはんを物色する。長門は市であり、街は比較的充実している。駅の長門市紹介掲示を見たところ焼き鳥が名物らしいが、昼から焼き鳥にビールをキメてしまうとその後の旅程に不安が残る。名物を食べることは諦め、駅近くの食堂で日替わり定食を頼む。600円で鶏南蛮を食べられたので大満足である(タルタルソースが異常に多かったが)。

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長門:タルタルソース定食

長門 → 萩

お腹を満たしたら三日目の目的地萩へ。3連続でキハ40。旅行客っぽい人の多くがワンマン列車の乗り方に慣れていないらしく、降車に時間がかかっている。たしかに戸惑う部分も多いよなと思う。でも地元客っぽい乗客も特に不満顔もせず過ごしていた。優しい。

萩、と言っても実際には萩駅の隣、東萩駅で下車する。萩に来たら行きたかった松陰神社の最寄りは萩駅ではなく東萩駅なのだ。萩をどう散策すると良いのか事前に調べてもピンと来なかったので観光案内所に駆け込む。親切な所員さんから徒歩で回るくらいなら自転車を借りると良いと教えてもらう。そのまま駅隣のレンタサイクル屋へ行く。

レンタサイクル屋の名前は「スマイルサイクル」。名前や住所、連絡先を用紙に書き込んで受付に渡したらすぐに自転車を用意してくれた。が、出てきた自転車は空気の入りが微妙、左ブレーキは強く握ると戻らない、カゴも不安定で外れかけているというどう考えてもスマイルではない代物。自転車の整備は悪いが店員さんの人柄は大変に良く、満面のスマイルで自転車を渡してくる。自転車の劣悪さにはさすがに文句の一つも言いたいところだが、小心者の僕は店員さんのスマイルに押されてスマイルで受け取った。左ブレーキを強く握らないよう細心の注意を払って出発する。スマイルがあれば整備不良の自転車でも商売ができることを学ぶ。

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萩:スマイル号

スマイル号にまたがり、まずは松陰神社を目指す。松陰神社吉田松陰が指導者を務めた松下村塾があった場所に立てられた神社である。松蔭神社の敷地内には松下村塾の建物や吉田松陰の実家である杉家の建物が現存している。ここまでの道中で吉田松陰高杉晋作が主人公の小説「世に棲む日日」を読んでいた僕は松下村塾の現物を見てかなり感動してしまった。この部屋のこの畳の上で高杉晋作久坂玄瑞伊藤博文も議論していたのだなぁと思うと感慨深いものがある。司馬遼太郎の著作は小説であるから、もちろん作り話の部分も多い。しかしその作り込みは詳細で、例えば高杉晋作が初めて吉田松陰に面会したとき、吉田松陰が部屋に居ると知らずに縁側にどっかりと座ってしまったという描写がある。この描写は十中八九司馬遼太郎の創作であろうが、実際に杉家の吉田松陰の部屋は窓に面していて縁側もあり、人々が繰り返し座ってできたのであろう擦り切れもあった。事実であるか否かというのを脇に置くとしても、「たしかに、ここに高杉晋作が礼をわきまえずにどっかりと座ってしまったのかもしれないなぁ」などと考えるのはとても楽しかった。

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萩:松下村塾

松蔭神社を後にして、次は吉田松陰の墓に向かう。整備が甘いスマイル号にはかなり無理がある急坂をなんとか登りきり、墓所にたどり着く。この墓所には吉田松陰の墓だけでなく、松下村塾の門下生である久坂玄瑞高杉晋作や、松蔭の親族や師匠である杉百合之助玉木文之進の墓もある。長州幕末志士贅沢盛り合わせな墓地である。賽銭を入れると線香を上げられるシステムになっていたので、握っていた小銭よりひとつ高価な小銭を供えて焼香する。

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萩:松蔭の墓

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萩:スマイル号には無茶な急坂

左ブレーキ(後輪ブレーキ)の動きが悪いという文字通り致命的な自転車をどうにか操って急坂を下る。まだ時間があるので、萩城下町方面に向かう。城下町は世界遺産に登録されている割には大したことは無かった。一通り回ってみようということで高杉晋作像を眺め、彼の生家の前を通り、城下を一周してみる。少し行った先に明倫館があるので、そちらも寄った。いずれも17時以降の訪問だったので施設は開いておらず、外から眺めるだけとなってしまったのは少々残念である。ただ、最高の天気に武家屋敷特有の白い塀が良く映えており、綺麗なことには綺麗だった。

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萩:高杉のアニキ

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萩:武家屋敷と八朔と青空のコントラストが良い

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明倫館:おばさんに「閉まっちゃったわよー」と言われた

夕飯は萩中心部の居酒屋に行く。入店時にすでにほぼ満席。見蘭牛のモツ煮、地魚のフリット、酒の肴3点盛りを順に頼む。どれも非常に美味しくて大満足。これでこの旅行での居酒屋は最後であるが、居酒屋選択のセンスが光る旅になったなと我ながら思う。

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萩:見蘭牛のモツ煮。これとうどんだけで満足できるが僕は強欲なので食べ続ける

山陰本線の最終列車に乗って1駅移動し、宿に向かう。この日の宿はビジネスホテルではなく、観光温泉旅館。おじいさまやおばあさまが使うような観光温泉旅館が、コロナの影響なのか何なのか素泊まりで格安プランを組んでいるのを見逃さなかったのである。いわゆる観光温泉旅館には物心が付いてから初めて泊まったが、なんだか不思議な雰囲気でとても面白かった。「日本海の岩をそのまま使っています!」という風呂はなぜか水族館のイルカの水槽の匂いがした。マッサージチェアが無料だったのでこれでもかと使い倒してから就寝。

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越ケ浜駅:宿の最寄り駅。何もない!

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越ヶ浜駅:松陰先生も森羅万象に嘆かれて多忙である

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萩:無駄に広い

読んだ本

司馬遼太郎「世に棲む日日」

www.books.or.jp

世に棲む日日は吉田松陰高杉晋作の生涯を描く小説。全4巻。この日は萩に着くまでの道中で読み進め、2巻の途中、安政の大獄あたりまで読んだ。吉田松陰安政の大獄で処刑されるわけで、そこが彼の人生のいわばクライマックスであるが、ここを読んでいるタイミングで萩にたどり着いたのは良いタイミングだったようにも思える。