2022年春の現実逃避旅行 〇日目・一日目

秋学期の授業をこなし、3月頭締め切りの論文をどうにか提出し、卒業後の進路選択も大詰めという、なかなかにストレスフルな日々から現実逃避すべく、一人で関西方面大回りを演じている。せっかくなので旅行記を書いてみる。

つくば → 渋谷

朝5:45に甚大な眠気を抱えながら起床。前日のお酒が「そりゃまだ体内にいますよ」と言わんばかりに脳にも内蔵にも残っており、すこぶる体調が悪い。猫から心配されるレベルの猫背でもぞもぞと布団から抜け出して顔を洗い髪をとかし、自転車でつくば駅へ向かう。6:57つくば駅発の区間快速で北千住へ。北千住からは東京メトロで渋谷に向かう。春休みの日曜日ということで車内は普段より空いており、道中ずっと座れたのは幸いである。

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つくば駅:のんきに写真を撮っているが普通に吐きそう

渋谷

8:30から20:00まで渋谷でアルバイト。この日は近年まれに見るレベルの平和な日だった。この日僕の役割は「同僚たちの手が回らない場面への遊撃」だったが、そんな場面もほとんど起こらず、とにかく暇だった。二日酔い、睡眠不足、ド平和、暖かい日曜日ということで、業務中本気で気絶するかと思った。

渋谷 → 東京

どうにかアルバイト業務(というより時間が経過するのに耐え続ける修行)を終え、東京駅に移動。ド暇だったとは言えアルバイトでかいた汗を洗い流したいと思い、東京駅から20分ほど歩いて銭湯「湊湯」に向かう。湊湯前に到着するも、中の様子が全く確認できない外観にビビりまくる。これは実は怪しい店なのではないかと逡巡し、Googleマップの口コミをおさらいする。不審な書き込みが無いことを確認し、一歩踏み込んだら普通の銭湯だった。なんでこんな危険な雰囲気を出すのだ!と思ったが、外から中が丸見えの銭湯はそれはそれで最悪だなと思い直す。

www.minatoyu.jp

風呂から上がり、東京駅に戻って夕飯を物色する。天下の東京駅だし何でもあるだろうと高をくくっていたが、例の憎きウイルスのせいで店という店がことごとく閉まり散らかしている。かろうじて開いていたベルマートでサンドウィッチを買う。食べる場所が無いので、仕方なく八重洲口のバスターミナルの一角に陣取って腰を下ろす。周りにも似た境遇っぽい人々がわんさと落ちている。サンドウィッチは一口で口の中の水分を全部もっていかれるほどパサパサに乾燥していた。苦り切った顔でなんとか食べきる。

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東京駅:田舎者なので東京駅を見るとすぐ写真を撮ってしまう

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宝町IC:歩いてたらベストタイミングでつくば号が通った

東京 → 大阪

東京から大阪までは深夜バスで移動する。バスの出発は23:20で、2時間ほど待つ必要がある。バスの発着場である鍛冶町駐車場に行ってみると、駐車場前の歩道にビッチリ若者が集まっている。新型コロナの影響で待合室には出発20分前にならないと入れないため、行くあてのない待ち客が溢れかえっていたのだ。極めて楽しそうでハイテンションな若者グループの間に挟まり、全力で肩をすぼめて文庫本を開く。

深夜バスは値段をケチったため、4列シート2階建てという奴隷船のような仕様だった。固く狭い椅子に身を沈める。通路側だったのが多少は救いだった。出発前の状況から薄々察してはいたが、乗客はハイテンションな若者の率が極めて高い。僕の席の前列の客は横一列に並んだ4人の男性グループで、出発直後の消灯後もずっとモソモソ何か話し合ったりふざけあったりしていた。バイトの疲労もあって僕はすぐに寝入ることができたが、周りの乗客は苦労したことだろう。途中の休憩所で彼らが「全然寝れね―よ」と嘆いているのを見たときは「口を閉じれば寝れるんじゃないですかね」と本気でアドバイスしそうになった。次回深夜バスに乗るときは最低料金+2000円くらいの便を選ぼうと強く心に刻みこんだ。

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大津SA:奴隷船

大阪 → 高松

なかなか過酷な深夜バスだったが、寝ることには寝れて、身体はバキバキなものの体力は回復した。大阪で少し休もうかとも思ったが意外に動けそうだったのでそのまま駅に入る。券売機で青春18きっぷを手に入れ、神戸線の新快速に乗る。関西のJR新快速はハチャメチャに飛ばすので景色を見るのが楽しい。

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大阪駅:紙版のどこでもドア

姫路で山陽本線115系に乗り換える。JR東海でははるか昔に引退した115系(オレンジに緑帯のアイツ)も、関西では現役も現役である。真っ黄色の車体は「塗装費用をケチるため」とも言われ、末期色と呼ばれている。首都圏を走る列車や我らがつくばエクスプレスは座席がペラッペラのカッチカチでとても長時間座っていられないが、この115系国鉄車両だけあってふかふかなのはお尻に優しい。相生で乗り換えて上郡へ。

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相生駅:真っ黄色の115系

上郡では45分ほど時間があったので、改札を出て街を散歩する。特に感動的なこともなく、平均的な街だった。駅前の和菓子屋の店主と目が合ったので「デヘヘ」という表情を浮かべながらどら焼きを買う。普通のどら焼きかと思っていたが中から栗が出てきて少し得した気分になった。コーヒーに合う。上郡から岡山へ。

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上郡駅:嬉しい栗入りどら焼き

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上郡駅:一人旅のためにあるような良い天気

岡山からは快速マリンライナーに乗り換えて高松へ向かう。快速マリンライナーは高松側の先頭車両が指定席やグリーン車になっていて、先頭で景色を見たければ追加料金を払う必要がある。……のだが、岡山側の先頭車両は普通車なので、逆方向(高松→岡山)の移動では無料で先頭眺望を独占できる。お金を払う人がいるんだろうかと心配になる。鉄道で瀬戸大橋を渡るのは何度やっても楽しい。瀬戸大橋は吊橋なので列車が通るとその重みでたわむ。このたわみによるレールの伸縮を吸収する特殊なレールが橋の両端に付いており、目視できると少し嬉しくなる。空は若干曇っており、絶好調な景色とは言い難い。

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瀬戸大橋:微妙すぎてコメントにこまる天気

高松

高松での猶予は1時間半ほどなので、この時間で高松を体感してうどんを食べなければならない。伊予鉄沿いに歩いてまずは一軒目のうどん屋。役所の隣に位置していており、ちょうど昼時だったのでとても混んでいた。旅行用の少し大きなリュックサックが邪魔にならないよう小さくなりながらうどんを食べる。イカゲソ天も美味しかった。駅まで戻って、二軒目は駅すぐそばの店に入る。歩いていたら暑くなったので、冷ぶっかけにする。たけのこ天にウインクされたので付ける。時間的には三軒目も行けそうだが普通にお腹いっぱいになってしまったので、少し後ろ髪を引かれるが高松を離れることにする。たけのこ天にウインクされたのが運の尽きだったと思う。

高松 → 倉敷

良い具合に雲が取れ、瀬戸大橋線は帰りのほうが景色が良かった。運転台後ろにべったりくっついた親子を微笑ましく眺める。お母さんもお子さんもやたらと鉄道に詳しい。鉄道好きはこうやって遺伝していくんだなと思う。

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瀬戸大橋:真ん中あたりのがレールの伸縮装置

岡山から倉敷までは引き続き山陽本線115系で下っていく。最初は嬉しかった115系だがさすがにもう無反応で乗り込む。相変わらずふかふかの座席に尻は喜んでいる。尻が喜ぶと言えば、JR西日本の列車は基本的に全列車にトイレが付いているのが素晴らしい。しかもトイレは原則先頭車両に設置されていると決まっているので、異常頻便マンの僕も大安心である。

倉敷

一日目の目的地、倉敷に到着。15時から研究のオンラインミーティングに出席しなければいけないので、駅前をうろついてパソコンを開き声を出せそうな場所を探す。倉敷は到着前に考えていたよりも数段は観光都市で、屋外のそこら中にベンチやら机やらが置いてある。「あちてらす倉敷」という最近完成した官民連携ビルの脇に良い具合の場所があったので陣取る。かなり安定したフリーWi-Fiが飛んでいるのがありがたい。1時間弱ミーティング。後半は少し冷えてきたが、それでも外での作業が気持ちの良い気温である。天気に恵まれて良かった。

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倉敷駅:駅前からして観光地

ミーティングを終えて街へ繰り出す。倉敷には美観地区が設定されているらしいのでそこへ向かう。駅に降り立った時点で何となく気づいていたが、カップル率・女性グループ率が異常に高い。普段ゴリゴリ理系の研究棟で10時間以上を過ごしている僕からすれば異次元空間である。人間って男女がだいたい半々ずつ存在するんだったな、としみじみ思う。思えば倉敷観光協会のホームページで「一人旅」のモデルコースがゼロ件だった。そういう街なのである。オシャレな街を歩くオシャレな人たちの間を縫うようにして、全身ユニクロでごめんなさいと思いながら散歩する。

美観地区そのものも綺麗で良かったが、その美観地区にきちんと住民が暮らしているというのがとても良かった。僕が散策したのは16時過ぎくらいだったのでちょうど小学生の下校時間に当たったのだが、小学生の下校グループが美観地区の白壁の家々に一人ずつ帰宅していく様子が見て取れた。僕は観光のためだけの美観地区は冷めた目で見てしまうが、これは良いなぁと思った。

夕食は大通りに面した居酒屋に入った。入店時はガラガラで不安だったが、しばらくしたら満席になった。良いタイミングで良い店を選択できて満足である。焼き鳥がメインらしいので焼き鳥を数本頼み、あとは観光客丸出しのチョイスで、サワラのタタキとママカリ酢を頼んだ。全てとても美味しかったが、サワラのタタキが特に美味しかった。歩き疲れていたので最初の一杯はビールにしたものの、これは料理に失礼だということでさっさと飲み干し日本酒へ移る。またも観光客丸出しで倉敷の地酒「伊七」を選択。地酒は失敗するときは失敗するものだが、これは普通に美味しくて良かった。

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倉敷:サワラのタタキ

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倉敷:ママカリ酢

一通り飲み食いを終えて気分が良くなったので再び街へ繰り出す。街の真ん中の、小高い山の上にある阿智神社へ行き街を眺める。かなり階段の段数があり酔っぱらいにはなかなか厳しい。ここで転んだら旅が終わると肝に銘じ、九十歳のおじいちゃんばりの歩みで手すりをガッチリ握りしめて階段を降りる。倉敷の街は昼より夜が綺麗だと思った。カップルやグループもどこかに消え、一人散歩している人をちらほら見かける程度である。ただ一箇所、川沿いに和傘が並べられライトアップされている場所があり、そこは観光客が釣れまくっていた。へそ曲がりな僕は足早に通過。

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倉敷:夕暮れ一歩手前のエモ雰囲気市街

散歩を終えたらホテルに戻り、大浴場で汗を流して読んでた本の残りを読んで就寝。前の睡眠はクソ硬クソ狭深夜バスのシートだったので、ビジネスホテルのふかふかベッドが大変ありがたく感じる。全ホテルマンに感謝の五体投地をする。

読んだ本

伊坂幸太郎ゴールデンスランバー

www.books.or.jp

現実逃避の旅行にふさわしいかなと思って、首相暗殺の犯人に仕立て上げられた主人公が仙台をとにかく逃げ続けるという本を選んだ。伊坂幸太郎の、最高に伊坂幸太郎らしい本である。何度読んでも伊坂幸太郎は天才だと思う。本の雑誌の書評に「伊坂幸太郎はエクセルを使って本を書いているのではないか」と書かれていたが、まさにそんな感じの風呂敷の広げっぷりと閉じっぷりである(実際にエクセルで本を書いているということはないらしい)。最近Twitterでは伏線回収系の漫画がよくバズっているが、そういうのが好きな人は伊坂幸太郎も好きなんじゃないかと思う。