芸専通信の「依頼」について思うところ

お久しぶりです。春休みに入ってやたらとタスクが増加して死にそうなすだめです。
これに加えて平日バイトをしているような友人たちには頭が上がりません。
今日はTwitterに書くと余計な炎上を生みそうな案件ですので、ブログに書いていきたいと思います。

バックグラウンド

芸専通信をご存知でしょうか。公式ホームページによると

芸専通信は、学内のイベント毎に宣伝活動を行う筑波大学芸術専門学群の広報部として、10名ほどの有志によって2017年5月につくられました。
-- geitsu-official

というものだそうです。
この芸専通信が新しい試みとしてデザイン制作の受注を始めました。

始めたのは良いのですが、問題となっているのはその価格。
筑波大生の依頼であれば1000円から、一般の方の依頼であれば5000円から受け付けるそうです。

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図中にある「トップページに掲出された文章」はこちら

この価格設定について思うところがあったので文章にまとめてみました。

デザイン料の相場

デザインと言っても幅が広いので、ここでは大学生が依頼する可能性が高い(と独断と偏見で判断した)「オモテ面のみのA4サイズのフライヤー」を想定して調べてみます。
画像としてTwitterで拡散したりLINEで回したり、あるいは紙として学類ラウンジに置いておいたりと、"ありがち" なデザイン案件だと思います。

まず見つけたのはこのツイート。

今から半年ほど前にバズったツイートですが、これによるとA4フライヤーの制作費は2万5000円から8万円だそうです。

もう少し調べてみましょう。こちら は株式会社ナウ(大阪でチラシやカタログを作成している会社)のブログからの引用です。

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カタログやチラシのデザイン制作料金の相場と内訳を大公開!

これによると個人事業主の場合2万円から4万円という金額が出ています。

また、クラウドソーシング最大手Lancersでフライヤーデザインの依頼欄を見るとこんな具合でした。(ログイン制のサイトなのでぼかし処理をしています)

f:id:sudame:20180304231828p:plain Lancers

こちらもざっくり見たところ2万円から5万円といった価格帯でした。

「筑波大生は1000円〜」という価格設定

以上の調査を踏まえて、この価格設定はデザインにある程度精通している人とそうでない人、両方に摩擦を生じる可能性があると考えました。

まずデザインに精通している人の場合、直感的にこの価格は「安すぎる」ことが分かります。
自らもデザインをしている人であれば、「自分の仕事の価格帯を破壊されるかもしれない」と不安になるのも当然です。あるいは、「1000円程度で作れるデザインなんてたかが知れているだろう」と意味もなく見くびられるかもしれません。

デザインに詳しくない人に対しては「そうかデザイン料ってこんなもんなのか」という印象を与えてしまう可能性が高いでしょう。
芸専通信が何を考えて最低ラインを1000円と設定したのか定かではありませんが、仮に「Twitterのアイコン制作レベルなら1000円で受けてもいいよね」というようなスタンスで設定したとすれば、「1000円でフライヤー程度のものは作れる」と思い込んでいる人と芸専通信の間で近い将来軋轢が生まれる可能性は非常に高いと考えらます。

この価格設定は芸専通信のことを考えた上でも心配の種が小さくないように感じます。

独自性を売り物にする場合はがっぽり貰うべき

これは本当にそう思っています。

利益は差異から生まれます。コンビニはその利便性がゆえにある程度高くても物が売れ利益が出ますし、スーパーマーケットはその安さがゆえに大量に物が売れ利益が出ます。
この「差異」を個人が持っている場合、それは非常に強い武器となります。流暢にはっきりと話すスキルを持った人はアナウンサーとして生計を立てられますし、プログラミングを書く技術を身につけた人はプログラマーとして食べていけるでしょう。
芸専通信の場合、構成員が持っている高いデザイン能力は他のほとんどの大学生が羨ましがる「差異」です。質の高いデザインなど当然誰にでもできるわけではありません。 アナウンスやプログラミングと違い、デザインはいつでもどこでも求められるものです。いつでもどこでも求められるのにそれを実現できる人は少ない、だからデザインは高く付くのです。いや、高く付くべきなのです。

独自性を安く売るという行為は、同じ部分の差異を売り物にしている同業者を危険に晒すだけではなく、自分の価値を下げることにも直結します。
1000円というのは一般的な大学生の1時間分の給料に相当します。1000円で受注したデザインが数十分で完成するなら良いですが、そんなデザインなかなか無いはずです。デザインに費やす数時間はたった数千円程度の価値なのでしょうか。芸専の人がデザイン制作に費やす数時間(数日)は、今まで20年前後生きてきて培ったデザイン能力を活用する数時間(数日)でもあるはずです。これがそんなに安く売られて良いと私は思いません。
何でもかんでもお金に換算するのは下品ではありますが、お金を取る以上、適切な価格帯を設定することが自分たちを守るためにも必要なのではないかと思います。

なぜこんな文章を書いたのか

ここからは自分語りのようになってしまうのですが、「終わりに」に代えて、芸専通信の人も友人関係の中にあるにも関わらずなぜこのような文章を書いたのかを書いておきます。

私は芸専の人をとにかく尊敬しています。
私はイラストは下手、デザインセンスは無い、毛筆はミミズ文字、手は不器用、という究極とも言えるような非芸専人間です。
尊敬するような技術を持った人たちがその尊敬する技術をあまりに安く売っていたら、彼ら彼女らを尊敬する身としては「なんて勿体無いことを…」と悲しい気持ちにもなるのは理解いただけるはずです。

また、実は仲間内で「このデザインは芸専の人にお願いしてみたいね、やってくれたらもちろん相応のお金は出そう」という話がタイムリーにも持ち上がっていました。その話の中で出た金額と今回の金額があまりにもかけ離れていたため、その点でも少々寂しいような気持ちを抱きました。

この文章は私の個人的な意見です。これが総意だ、などと高飛車なことを言うつもりは毛頭ありません。
ただ、少し悲しくなったので文章にまとめてみたまでです。

文末がまとまらなくなってしまいましたが、以上です。